霧雨の中を走る

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霧雨の中を走る

 仕事を終えて走りに出た。雨は本降りではなかったが、霧のような粒が空気中にあって前方に移動するとそれらが体にまとわりつく感じ。自分から濡れに行っているようで妙な快感がある。気温が低くてとても走りやすかった。22℃くらい。いつもこれくらいだといいのにと思う。走り始めは毎回どうしてこんなに辛いことをやってるのかと思うが、2キロくらい進んだ時にはもう快感に変わっている。夜だと周りが暗くて、足は自動的に音楽に合わせて同じリズムを刻むので、まるで脳だけが前に進んでいるような不思議な感覚に陥る。このような雨っぽい日にはいろんな匂いがする。風がなくても身体を前に進めると、空気は流れるから。自分が風。普段は潜んでいるはずの匂いが、雨によって空気中に現れている感じ。土っぽい匂いやおたまじゃくしの匂いや誰かが吐いたタバコの匂い。走っている時は集中力が増しているせいか、それらは様々な記憶を呼び起こす。昔住んでいた木造の家、友人のベランダと缶ビールとタバコ、どこか遠い場所での季節の変わり目、梅雨の時期に青梅街道をドライブしていた日。そんなことを考えながら走っていると、次第に街ゆく人たちが知人に見えてくる。写真家の先輩がラーメン屋のカウンターに座っていたり、モデル事務所のマネージャーが疲れた顔で歩いていたり。こちらは速度づいているので、一瞬の刹那だ。たぶん本人ではないのにその一瞬が錯覚を助長させる。何かに近いと思ったら、スナップ写真を撮っている感覚だった。通り過ぎた後に「〇〇さんじゃん」と実際口に出して言う。本当はそれが違うのだとわかっていても、言いたくて言っている。それが可笑しくて笑ったりする。相当変態だ。走っていなければ職質を受けそうなくらいには危ない。でも雨の日は暗いので、本当にあの人だったのではないかという思いがしばらく消えない。そんなことをやっているうちに5キロが終わる。ナイキのランニングアプリをずっと前から使っていて、最近は走り終わった後にナイキランクラブの世界中のコーチが褒めてくれる。おそらくコーチは何かのアルゴリズムによってランダムに選ばれている。今日はポートランドのジュリーだった。「君の今日の走りと努力は、誰にも奪われることはないものだわ。やったわね」みたいになかなか気の利いたことを英語で言ってくれる。たぶん実在するコーチがいて、実際そのような言葉を使っているのだろう。汗だくになりながら「サンキュージュリー」とまた実際に口に出して言う。それが終了のシグナルになる。やっぱり相当あぶない感じがする。周りに一応、誰もいないことを確認しながら。

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