新著の出版が終わると、久々に長い距離を歩きたくなった。
奥多摩駅からバスを乗り継ぎ、三条の湯へ向かった。
久々のハイクログ。

Base Weight 8kg
Pack Weight 10.4kg
僕にとっては重いほうで、過去最大の積載量かもしれない。その理由は、山を降りて家に帰らず、更にそのまま転々と3泊しようと思っているから。合計4泊5日の旅である。
街に降りて継続的に作業できるように、いつもの撮影システムに加えて、ラップトップを積んでいる。これが重量を増やしている。だがよく考えてみれば、山行の前後に都市での滞在を組み込むバリエーションは結構ある。過去にも長野や屋久島で、そのような旅をしてきた。むしろ、One Bagで生きるということは、それだけでどこでも暮らせることだ。都市と自然をシームレスにつなぐことを、常に考えるということ。
ウルトラライトという手法を取っていなければ、これは難しい。僕の場合は、撮影機材、すなわちカメラ・三脚・備品で3キロは超える。だから撮影機材がなければ、Pack Weightは本来7キロほどに収まるはず。もし撮影機材を一切持たずに山に入れたら、どれほど軽いだろうといつも想像する。同時に、もしウルトラライトの方法論を取り入れずに、撮影を行なっていたら、どれだけ厳しいだろうかと考える。過去には実際に、仕事でヘビーウェイトの山行をしていた。だからこそ、撮影を楽に行い、移動距離を伸ばすために、ウルトラライトという手法を用いるようになったと言える。

奥多摩駅から同じバスに乗ったのは海外勢ひと組と、地元の人らしき方々のみ。この時点で僕のソロハイキングが確定した。(海外勢はひとつ先のバス停で降りた)
西鴨沢で降りて、お祭りバス停まで歩く。お祭りバス停まで行くバスは本数が少ない。それにしても縁起の良い名前だ。お祭り。7月に長野の王滝村で参加した祭りを思い出す。花火が上がった。僕の夏休みは一足先にやってきて、8月には息を潜めた、それから怒涛の執筆の日々が始まったのだった。


ひたすら林道。晴れているが木々に囲まれているせいか、涼しい。どんどん歩いていく。瞑想的に。
途中で、バックパックのショルダーと、シューズのストラップを、よりタイトに締めてみた。ブレがなくなり、歩きがより硬質になった。メカニカルに、より体の中芯を使うダイレクトな歩行になった。VivobarefootのPrimus Trail Knitはスリッポン構造で緩く履けるため、どうしても街にいる時のように緩く履いてしまう。だからこそ、シューレースをきっちり締めることが大事。しっかり締めるとまるで別の靴であるかのような体感が得られる。足首と甲の部分はしっかりと固定され、着地でブレないのに、指先は五本とも自由だ。それが心地よい。そして口を閉じて鼻呼吸。これも大事。

撮影しつつ、3時間20分ほどかけて10キロを歩き、三条の湯に到着した。
テント場は川のすぐ側にあり、山小屋は高い位置にある。受付に行くと、他にテント泊の人はいないと言う。ひとりで少し寂しい気もするが、大自然の誰もいない中で孤独に考え事をするには良い機会だと思った。何より撮影が行いやすい。もちろんこれは少し狙ってのことでもある。平日、かつシーズンずらし、人気すぎる場所は避ける。せっかく自然の中に入っているのに、渋谷みたいに混んでいる山はきつい。
テント料金は1500円。温泉も付けますか?と言われ、混んでたら諦めようと思っていたが、一人なのでもちろん付けた。入浴料は800円。(2025年9月現在)合計2300円で、大自然の中で温泉付きで自分の好きなテントで泊まれるのは素晴らしいと思った。東京近郊には箱根や熱海や伊東など素晴らしい温泉地がたくさんあるが、そのへんの温泉旅館に5万で泊まるよりも、僕はこっち派だなと思った。前提を言えば、山では風呂は入れなくても全然良い派なのだけど。

テントを張って、温泉に入る。最近グラウンドシートをタイベックからポリクロに変えた。軽くて、使用した後のメンテも楽だ。使用後はバサバサと水気を切れば、汚れも同時に落ちる。耐久性はタイベックよりも低そうだが、初回の使用には耐えた。地面はフラットで、土と砂利混じりの張りやすいテント場だった。使用しているテント、HyperliteのMID1はグラウンドシートなしでも使用できるフロアの厚みがあるが、使用後の汚れ落としの手間を考えると、グラウンドシートを1枚敷いたほうが楽で、長持ちしそうだ。

トロッとしたやや硫黄系の温泉に入り体が温まったので、思わずビール。アサヒかキリンか選べて、キリン。600円。澤乃井の日本酒カップも並んでいたが、なんとか我慢した。
少し遅めの食事。カレー飯に、乾燥野菜、プロテインバーとシーチキン、オリーブオイル。最近の山でのお気に入りメニュー。


山に持ち込んでいるのはこのようなラインナップ。塩分に注意しながら、総カロリーとタンパク質と食物繊維を意識している。重量と調理の簡易さの点でフリーズドライやアルファ米を基本に。数値ターゲットは山行の負荷と、個人の身長体重によっても変わるので、調整しながら。全て「そのへんのスーパーやコンビニで手に入れられる食材で賄う」がテーマ。

キルトは夏前に新調したEnlightened EquipmentのRevelation 20°F。カラーはTokimaru Tanaka別注。この日の気温は現地で最低8℃ほど。樹林帯と川のテント場だったため、気温変動は柔らかく、結露もほぼ無かった。トップのはヒアネスのドライウールTの上に、パタゴニアのナノパフを着た。体感はちょうどよく、途中で掛け布団にしたりして、キルトの機能を生かして快適に眠れた。

何より良かったのは、Enlightenedでキルトを買ったらおまけでついてきた、こちらのインフレータブルピロー。普通に買うと5、6千円ほどしそうな品質のものを無料で付けてくれるとはどれだけ太っ腹なんだEnlightened。テント泊の時の枕はいつも適当で、ザックを置いたり、服を適当にまるめたりしているのだけど、明らかに睡眠の質向上に役立つと思った。ピローの表面は心地よい肌触りで、裏面には滑り止めがあり、固定用のバンドもあることで、ラフに寝ても全くズレ落ちることがない。
翌日は普段通り5時ごろ起きて、ネスカフェで豆乳ラテをつくり、ゆっくり準備して7時過ぎにテント場出発。川沿いのテント場は、ペグをさっと洗えるので好きだ。持ってきた時よりも美しくなった。


テント場北側の周遊ルートを一応確認しに行くが、地図が波線になっており全く通れなかったので、来た道をピストンで10キロ、3時間ほどかけて歩いた。景色は変わらず退屈なのだが、その退屈ささえも瞑想的で楽しく、あっという間にお祭りバス停に到着した。
奥多摩駅から次の街へ向かうころには、もう次歩く山のことを考えていた。
この山行の動画はYouTubeで。